こんにちは。この度はひかり社会保険労務士法人のブログを御覧いただき誠にありがとうございます。
時間外労働に関わる事件やニュースが増える中、「労災認定」という言葉をよく耳にされるかと思います。「労災認定」と聞くと業務中のケガなどをイメージしますが、長時間にわたる時間外労働などを要因として発症する恐れのある「脳・心臓疾患」「精神疾患」についても「労災認定」の基準が設けられています。
今回は「労災認定」に係る時間外労働時間数の基準についてお伝えしたいと思います。
● 「脳・心臓疾患」と「精神疾患」 ●
長時間労働を起因とする労災認定の対象疾患は大きく「脳・心臓疾患」と「精神疾患」に分けられます。それぞれにおいて、時間外労働の時間数に応じた基準が設けられており、その基準を超えると「業務」と「発症」との関連性が強いと判断される可能性が高まります。
● 脳・心臓疾患 ●
脳・心臓疾患とは、脳内出血やくも膜下出血等の「脳血管疾患」、心筋梗塞等の「虚血性心疾患」の事を指します。「業務による明らかな過重負荷」を受けたことにより発症したと認められれば「労災認定」となります。
その判断基準には以下の3つがあります。
①異常な出来事:発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的および場所的に
明確にし得る「異常な出来事」に遭遇したこと
②短期間の過重業務:発症前おおむね1週間に日常業務に比較して特に過重な身体的、
精神的負荷を生じさせる業務に従事したこと
③長時間の過重業務:発症前おおむね6か月間に著しい疲労の蓄積をもたらす
特に過重な業務に従事したこと
その中で、長時間に上る労働は疲労の蓄積をもたらす要因と考えられるため、時間外労働が下記の基準を超えると業務と発症との関連性が強いと判断される可能性が高まります。
<発症前1か月間におおむね100時間を超える もしくは 発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働>
平成28年6月に厚生労働省が発表した平成27年度「過労死等の労災補償状況」
の資料に「脳・心臓疾患の時間外労働時間数別支給決定件数」が掲載されています。
下の表を御覧頂くと、時間数が80時間を超えるのに伴って、件数も急激に増加している事が分かります。上記の基準を超えると労災認定される可能性が高まるという事を実感して頂けると思います。
● 精神疾患 ●
精神疾患とは、うつ病や統合失調症等の疾病や精神障害を指します。
下記3つの認定要件を満たす場合は「労災認定」となります。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、
業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
そして、②の基準に記載されている「業務による強い心理的負荷」を判断する基準として、下記の時間外労働時間数が定められています。
○ 発病前1か月におおむね160時間以上
○ 発病前3週間におおむね120時間以上
○ 発病前の2か月連続して1月あたりおおむね120時間以上
○ 発病前の3か月連続して1月あたりおおむね100時間以上
上記の基準を超えると「心理的負荷を強」と判断される可能性が高まります。
三菱電機の元社員の男性が長時間労働による精神疾患を発症し、昨年11月に労災認定されたケースでは、「発症の3カ月前から月100時間を超える残業」があったと認定された上で、「強い心理的負担がかかっていた」と判断されています。
● 最後に ●
今回は「業務」と「発症」の関連性が強いと判断される場合の「労災認定」に係る時間外労働時間数の基準についてお伝え致しました。実際の事例においては、今回ご紹介した時間数より少ない場合でも労災認定が行われる場合もあります。
「〇時間を超える残業、、、」というテレビや新聞での報道も、こういった行政の基準を知った上で御覧頂くと印象が変わるかもしれません。
最後までお読み頂き誠にありがとうございました。